会社を運営していると、資本金の「減資」が必要になるケースも出てくるでしょう。
言葉の響きだけだとネガティブなイメージのある減資ですが、税制上メリットがあったり、赤字の補填に役立つ面もあります。
そこで今回は、資本金減資の手続方法や、会計上の仕訳処理についてなど、詳しく解説していきたいと思います。
目次
「減資」の手続をするには
「減資」は、会社法によって厳格に手続方法が定められています。
これは株主や債権者の利益を害する可能性があるとして、株主や債権者を保護する目的からです。
減資の手続は、以下のような流れで行います。
- 株主総会での特別決議を行う
- 債権者の保護手続を行う
- 減資の効力が発生する
- 法務局へ登記の申請を行う
株主総会での特別決議を行う
「減資」を行う際には、株主総会の特別決議が必要であることが会社法により定められています。
会社法第447条より、以下の決議をしなければなりません。
- 減少する資本金等の額
- 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
- 資本金の額の減少が効力を生ずる日
債権者の保護手続を行う
「減資」を行うと、無償減資であっても有償減資であっても債権者へ不利益が生じる可能性があるため、必ず債権者の保護手続を行うことが会社法で定められています。
債権者の保護手続は、以下の3通りの方法で行います。
- 官報での公告
- 債権者への個別催告
- 1ヶ月以上の異議申出期間の設定
定款にて官報以外の日刊紙、または電子公告で公告への掲載を定めている場合には、そちらへ公告することにより債権者への個別催告を省略することができます。
通常時には決算公告を開示していない会社であっても、減資の場合には開示を行わなければなりません。
債権者が減資を行うことを知らなかったということがないように、債権者に対し、減資を行うことを知らせる必要があります。
また、債権者が減資に対して異議を申し立てる期間が必要となりますので1ヶ月以上の公告期間が必要と決められています。
債権者がこの意義申出の期間内に異議を述べなければ、その債権者は減資に承諾したものとみなされます。
万が一、債権者が異議申立てをしてきたときには、会社側は弁済期を迎えた債務は弁済、弁済を迎えていない債務については、それに相当する担保を提供するか、もしくは弁済に相当する財産を信託会社に託す必要があります。
「減資」の効力が発生する
原則的として、株主総会の特別決議により定められた日から「減資」の効力が発生します。
これを「効力発生日」といいます。
効力発生日までに債権者の保護手続が終わっていない場合には、債権者の保護手続が終了してから効力の発生となります。
官報に掲載の依頼をしてから実際に公告に掲載されるまでには一般的には2~3週間の時間がかかりますので、この日程も加味したうえで異議申出の期間を決めておく必要があります。
ちなみに、債権者の保護手続が効力発生日よりも後になってしまった場合、効力発生日を変更するための決定が別途必要となってきます。
取締役会での決議での決定を行わなければなりませんので、注意してください。
法務局へ登記の申請を行う
減資の効力が発生してから「2週間以内」に、本店の所在地を管轄する法務局へ変更登記申請を行わなければなりません。
登記は申請を行なってから、およそ10日ほどで処理が完了となります。
申請に必要な書類は以下の通りです。
- 株式会社変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主の氏名または名称、住所及び議決権数等を証する書面
- 一定の欠損額が存在することを証する書面
- 公告及び催告をしたことを証する書面
- 異議を述べた債権者に対し、弁済もしくは担保を供し、もしくは信託したこと、又は資本の減資をしてもその者を害する恐れがないことを証する書面
「減資」の手続にかかる費用
減資の手続には、「官報への公告」の際と、「法務局での手続」の際に費用がかかります。
官報における公告費用は約15万円で、直近に出した決算公告を掲載している場合では約4~5万円ほどの負担となります。
法務局での変更登記には3万円の登録免許税がかかります。
また、司法書士に依頼して登記内容の変更手続を行う場合には、司法書士へ支払う報酬が発生しますので別途費用がかかります。
全体でおよそ20万円程度の費用が必要になると見積もっておけばよいでしょう。
「減資」の手続にかかる期間
減資の手続きには、ざっと見積もって2ヶ月以上の期間がかかります。
2ヶ月の根拠は、以下の通りです。
- 官報に公告を掲載・・・申込みから掲載まで2~3週間必要
- 公告掲載の期間 ・・・1ヶ月以上必要
- 登記にかかる期間・・・2~3週間必要
「減資」を行った際の仕訳
「減資」を行った際、会計上どのような仕訳が必要なのでしょうか。
会計上では減資を行った際には、資本金を減少させ、他の勘定科目へ振替える仕訳が必要となってきます。
また、「減資の目的は何か?」「無償減資か」「有償減資か」によって、勘定科目はそれぞれ違ってきます。
「無償減資」
「無償減資」を行う場合、以下の2通りの方法があります。
- 「資本金」を「その他資本剰余金」に振り替える
- 「資本金」を直接「欠損補填」に充当する
「資本金」を「その他資本剰余金」に振替える場合
節税などを目的として減資を行う場合、「その他資本剰余金」や「資本準備金」を貸方とするのが一般的です。
例)節税のため資本金を1,000万円減額する場合の仕訳処理
借方:資本金 1,000万円 / 貸方:その他資本剰余金 1,000万円
「資本金」を「欠損填補」に充当する場合
「資本金」の減資分を直接「欠損填補」、つまり「繰越利益剰余金」のマイナス分に充当するケースもあります。
例)資本金を1,000万円減額して欠損額800万円に充当した場合の仕訳処理
借方:資本金 1,000万円 / 貸方:繰越利益剰余金 800万円
/ 貸方:その他資本剰余金 200万円
「有償減資」
資本金を減額し、その分で株主に対して配当金を交付する場合「有償減資」という処理を行います。
その際、必ず減資額を配当のための「未払金」や「現金預金」などに振替える仕訳処理も同時に行っておく必要があります。
例)株主総会の決議によって資本金1,000万円を減額し、株主へ払い戻すことになった場合の仕訳処理
借方:資本金 1,000万円 / 貸方:その他資本余剰金 1,000万円
借方:その他資本余剰金 1,000万円 / 貸方:未払金 1,000万円
ちなみに仕訳を行う日付は株主総会特別決議の日付ではなく、債権者の保護手続が終了した日付にしておく必要がありますので注意してください。
さいごに
今回は「減資」についての手続方法と、所要期間や会計上の仕訳について詳しく解説してきましたが、いかがでしたか?
減資の手続は赤字の補填や税制上でのメリットが享受できるなど、色々な目的で行われるものです。
しかしながら、会社にとっての資本金額は会社の信用の度合いを表すものにもなりますので、決算公告を行っていない非上場企業が減資を行うことは信用が得られにくくなるという危険性も併せ持っています。
こういった場合、資本金だけを開示するよりも資本準備金も含めた金額を開示することで、信用低下の回避につながる場合もあります。
また、減資を行うにはかなりの期間も必要となりますので、余裕をもって手続を行う必要がある点にも注意しましょう。