従業員のモチベーションともなる賞与、いわゆるボーナスですが、賞与も毎月の給与と同様、社会保険料と所得税の天引き対象となります。
天引きの対象となるのは同じですが、給与と賞与では社会保険料と所得税の計算方法が異なってきます。
そこで今回は、賞与とは何かから賞与にかかる社会保険料、所得税の計算方法についてまで、詳しく解説していきたいと思います。
目次
そもそも賞与って?
賞与とは、一般的にはボーナスや臨給などと呼ばれるもので、「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他のいかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるもの」(健康保険法 第3条第6項、厚生年金保険法 第3条第1項第4号)と健康保険法、厚生年金保険法により定義されています。
健康保険法、厚生年金保険法上「支給されるのが年に3回まで」のものが賞与とされています。
自社製品など、現物支給されたものに関しても賞与に含まれます。
定義が年に3回までとなっているため、年に4回以上支給されるものに関しては賞与ではなく月次給与(報酬)とみなされます。
賞与に対する社会保険料の計算
賞与にかかる社会保険料について、この項目で解説するのは健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料についてです。
給与とは異なり、「標準賞与額」に保険料率(被保険者負担の率)を乗じて算出します。
標準賞与率とは、賞与額の1,000円未満を切捨てた額になります。
- 給与=標準報酬月額×保険料率
- 賞与=標準賞与額×保険料率
小数点以下の端数は四捨五入して控除します。
事業者と被保険者の間に端数の処理にかかる定めがある場合、それに基づき処理を行います。
標準賞与の上限額
保険料を算出する基となる標準賞与額には上限がありますので高額の賞与が支給される従業員について、保険料率計算の際に徴収しすぎることのないよう注意してください。
保険の種類により上限額が変わります。
健康保険、介護保険
標準賞与額は、4月1日から翌年3月31日の1年間で573万円が上限となっています。
例えば6月と12月に500万円ずつの賞与が支払われる場合、6月分は「500万円×保険料率」で計算しますが、12月は類型で573万円を超えてしまうため、「500万円×保険料率」ではなく、「73万円×保険料率」で保険料を計算します。
厚生年金保険
厚生年金保険の場合は年間の累計ではなく、賞与の支給ごとに150万円が上限額となり、同月に2回以上の賞与の支給があったときは合算となります。
例えば6月と12月に200万円ずつ賞与を支払った場合、どちらも上限額の150万円を超えているため「150万円×保険料率」で計算します。
退職予定者の社会保険料
社会保険において、被保険者の資格を喪失した月の前月までに支払われた賞与が保険料徴収の対象となります。
すなわち、資格喪失月に支払われた賞与があった場合にはそこからは保険料を徴収しません。
例えば6月15日に賞与が支給され、6/26に資格を喪失した場合、資格喪失月と賞与の支給月が同じであるため、6月15日支給分の賞与からは社会保険料を徴収する必要はありません。
仮に賞与から社会保険料を控除したあと、被保険者より退職の申出があり、賞与の支給月に被保険者の資格喪失となった場合には保険料を返還する必要があります。
一点気をつけなければならないのは、「資格の喪失日は退職日の翌日となる」という点です。
すなわち月末退職の場合は次の月の1日が「資格喪失日」となるということです。
保険料の徴収は「被保険者の資格喪失」が起点となるため、月末の退職の場合には保険料を徴収する必要があると言うことなります。
雇用保険料の計算方法
賞与にかかる雇用保険料の計算方法は「賞与支給額×保険料率」になります。
社会保険料の計算では1,000円未満を切捨てた標準賞与額に保険料率をかけて計算していましたが、雇用保険料を計算する際は1,000円未満を切捨てず、そのまま保険料率をかけて計算します。
保険料徴収の対象となる賞与の金額上限はありません。
退職予定者の雇用保険料
賞与が支給される月に退職を予定している被保険者であっても、「賞与支給額×保険料率」により計算された金額が控除されます。
所得税の計算
原則としては賞与にかかる所得税について、前月の給与額から社会保険料等を控除した額を計算し、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表により求めます。
表は国税庁のサイトにあり、甲欄と乙欄の表示があります。甲欄、乙欄の使い方は以下の通りです。
- 給与所得者の扶養控除等申告書を会社に提出している者・・・甲欄
- 給与所得者の扶養控除等申告書の提出がない者・・・乙欄
原則、甲欄の所得税率は前月の給与額から社会保険料等を控除した額を算出し、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表を使って扶養親族数と前月の社会保険料等控除後の金額に応じて保険料率を計算します。
乙欄は扶養親族数は使わずに、前月の社会保険料等控除後の額より所得税率を計算します。
前月の給与がない場合や、賞与額が前月給与額の10倍を超える場合は、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表ではなく、給与計算時と同じく月額表を使用します。
賞与を支給した後の届出について
賞与を支給した後の各種届出方法について解説します。
社会保険
健康保険、厚生年金保険の被保険者に対して賞与を支払ったときは支給した日から5日以内に年金事務所へ被保険者賞与支払届と被保険者賞与支払届総括表を提出します。
支給月の翌月末日が保険料の納期限になっています。
健康保険組合の適用事業所については健康保険組合にも提出が必要です。
労働保険
労災保険と雇用保険については、賞与支給後に書類を提出する必要はありません。
4月から翌年3月までの間に支払いが確定した賞与額を、年間の賃金総額に含めて労働保険料を計算し、毎年7月10日までに申告し、納付を行います。
なお、労災保険の保険料については全額事業主負担となっているため、賞与支給時に被保険者負担分の保険料計算は行いません。
所得税の納付について
所得税について、原則的には納付書を現金に添えて賞与を支払った月の翌月10日までに納付します。
現金でない場合は預貯金口座からの振替納税、インターネットバンキング等を利用して電子納税等が可能です。
納期の特例を受けているときは、納付期限がそれぞれ以下の通りになります。
- 1月から6月までに源泉徴収した所得税・・・7月10日
- 7月から12月までに源泉徴収した所得税・・・翌年1月20日
さいごに
ややこしそうに感じる賞与についての社会保険、所得税の計算ですが、一つずつ落ち着いて計算していけばそこまで難しいものではありません。
慌てず正確に、余裕を持って計算してくださいね。